慢性期医療に関するよくある質問

慢性期医療について誤解されている部分もあります。
ここでは慢性期医療について、よくある質問をご紹介します。

慢性期には、どのような患者さんが多いのでしょうか。
慢性期は急性期など他のステージに比べ高齢者が圧倒的に多く、加齢による全身の諸臓器の機能低下や、生理機能の低下に伴うさまざまな疾患、認知症などが複合的に現れるため、治癒が難しく、入院期間が長い患者さんが多いのが特徴です。
超高齢社会により入院患者さんの年齢層も上がってきており、90歳を超える入院患者さんも珍しくはありません。
慢性期医療は急性期医療と比べ、やりがいが少ないというイメージがあります。
慢性期は、病状が比較的安定している時期であることから積極的な治療をするイメージはなく、やりがいも少ないのではと思う方もいるかもしれません。しかし、それは全く違います。
複数疾患の治療、さらに社会的背景や生活面、そして、いかに穏やかに人生の最期を迎えるかを考慮した医療が慢性期では必要ですし、慢性期であっても、積極的に治療をしなければ悪化してしまう入院患者さんも多くいます。
また、患者さんの人生の中で、急性期医療は「点」での付き合いですが、慢性期医療は「面」での付き合いになります。今までのキャリアや専門性を活かしながら、「人を助けたい」「人の役に立ちたい」という思いを断ち切ることなく全身管理が行え、患者さんとそのご家族が向き合える時間をできるだけ長く確保してあげられることは、慢性期医療ならではの大きなやりがいです。
慢性期病院で働くことは、急性期病院と比べて“楽”なのでしょうか?
慢性期は急性期のような急患や重症患者さんへの手術もなく、時間に追われることも少ないですし、慢性期病院は一般的に残業が少なく、プライベートな時間を確保しやすいため“楽”なイメージを持っている方もいるでしょう。
ただし、慢性期であっても病院によっては終末期の患者さんや急変患者さんが出る度に、夜間・休日を問わずオンコールが頻繁にあるなど、プライベートの時間が確保しにくかったり、仕事と家庭との両立が難しいこともあります。働きやすいどうかは、病院の勤務体系や働き方などによって大きく異なってきます。
慢性期医療は、年齢の高い医師が向いているのでしょうか?
特に年齢は関係ありませんが、慢性期で働いている医師の年齢は40~60歳の方が多い傾向にあります。
診療科にとらわれない医療を提供する慢性期は、これまでのスキルを活かして働くことができるため、他の領域である程度経験を積んだ医師が多く、年齢が高くても活躍できる領域です。また、子育てとの両立や働き方を見直すために、慢性期に活躍の場を移した若い医師の方もいます。
慢性期医療に向いている年齢は特にありませんが、病棟回診や当直のある病院では、ある程度の体力が必要であるため高齢の医師には難しいかと思います。
慢性期では幅広い知識が必要といわれていますが、外科系専門医や臓器別専門医でもできますか?
慢性期の患者さんのほとんどが複数疾患を抱えています。疾患が多領域にわたっているということは、外科系や臓器別専門医の医師が、今まで培ってきた経験とスキルを活かせる場面もあるということです。
慢性期には病態が治療によりある程度安定した状態の患者さんが多いですが、病状が重く積極的な治療や処置が必要な患者さんもいるため専門領域のスキルを充分に発揮することができるでしょう。実際に慢性期では、急性期で経験を積んできた外科医や臓器別専門医の多くが活躍しています。
また、慢性期にはさまざまな専門をもった医師がいるため、新たな知識やスキルを習得できるというメリットもあります。
慢性期では、どのような人物像が求められていますか?
慢性期では、多職種連携によるチーム医療が非常に重要視されます。コミュニケーション能力のある人、多職種の仕事を理解し尊重できる人、相手の立場に立って考える思いやりや優しさなどが求められます。慢性期医療は人柄や人間性を活かすこともできる領域です。
慢性期は子育てや介護などのライフイベントがあっても、復帰しやすい領域でしょうか?
慢性期は、ある程度のブランクがあっても復帰しやすい領域であると言えます。
慢性期は急性期と比べて激務にはなり難く、時間に追われることも少ないため、ある程度の余裕をもった落ち着いた働き方ができます。ブランク前の知識や技術を少しずつ思い出しながら仕事ができますし、「医療技術の進化や発展に追いつかないのでは」といった懸念も、高度な先進医療を行う急性期とは違い、慢性期医療の現場ではそれほど関係ありません。慢性期なら徐々に仕事に慣れることができる環境であるため、安心して復帰することができます。
慢性期医療に需要はあるのでしょうか?
日本は超高齢社会に突入しており、高齢者の増加は、慢性期の患者さんが増加することを意味し、慢性期医療の重要性は高まり続けています。
日本では“入り口”の医療である、急性期や救急医療が大きく発展してきましたが、高齢化社会が加速していったことで、これからの日本は“出口”の医療である慢性期医療の発展がなければ日本の医療は成り立たないという認識になっています。
これからの日本の医療は慢性期医療が中心となり、複数疾患や認知症などを抱える患者さんへの医療提供体制の整備や、在宅医療、ターミナルケアなども担っていく必要があり、それに対する人材教育・育成も重要です。
慢性期医療は日本の未来の医療を支えていく重要な医療であり、医療人が大いに活躍できるステージであるといえます。
慢性期では、専門性があまり身に付かないというイメージがあります。
医師 ―
慢性期病院においては高血圧・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病、循環器疾患、消化器疾患、呼吸器疾患などを複数抱えている人が多くなってきました。
近年、これらの複数疾患の優先順位をつけて包括的に管理・治療できる老年内科医の重要性が増しています。 老年医学を専門とする老年内科医は、日本だけではなく米国やヨーロッパをはじめ多くの国々で活躍しています。
慢性期医療においては、老年医学に関する専門性が十分身につくと考えます。

看護師 ―
慢性期においての看護とは、慢性期疾患を抱える患者に対して病気と付き合いながら、その人らしく生活していただくために疾患への知識や理解が必要となります。
成人看護や慢性期看護への知識や技術が必然と身につきます。

介護士 ―
慢性期においての介護とは、「身体的介護」「生活・環境整備」「健康観察」等を、他職種と協同する事によって、自己の知識や経験が活かされ、成人介護、老人介護の支援が身に付きます。
慢性期では、どのような知識やスキルが必要となりますか?
医師 ―
超高齢社会の現在では、慢性疾患をいくつも抱えながら生活せざるを得ない患者さんが増えてきました。以前は患者さんを「治す」ことを主目的としていましたが、今後は介護・福祉とも連携し「治し支える」ことへの転換が重要になってきます。
このため、それぞれの疾患に対して最も適切な治療を選択することはもちろん大切ですが、患者さんの状態を見極めて現実的な医療・看護・介護プランを提供することも大切になります。
すなわち、全人的で包括的な診療を行うための知識や、観察力・判断力といったスキルが必要になることが多いです。

看護師 ―
慢性期病院では、中心静脈栄養・人工呼吸器・経管栄養・気管切開などの管理や看護が日常的業務になります。また肺炎の看護や褥瘡処置等もあり、観察・判断力・実践力がスキルとして必要となります。

介護士 ―
慢性期病院の介護士は身体的介護や医療的処置時、看護師の指示のもと介護を実践します。口腔ケア等の技術も必要です。成人介護、老人介護の基本的技術やコミュニケーション技術もスキルとして必要です。